白焼きは大げさな演出や華やかさはありません。 その一尾が持っている“本来の味”を、そっと引き出していきます。 奇をてらわず、足しすぎず丁寧に。 その加減こそが、長年うなぎに向き合ってきた職人の感覚であり、 数字では語れない経験の積み重ねです。 仕入れるうなぎは、信頼できる生産者から届く国産のもの。 育て方、水、餌、すべてに目を配り、 「自分の家族に食べさせたい」と思えるものだけを選んでいます。 その身は力強く、ハリがあり、脂はのっていても決して重たくない。 焼くことで余分な脂は落ち、旨味がふっくらと閉じ込められます。 箸を入れた瞬間に、繊維がほどけ、口の中でやさしくほどけていく―― 噛むほどに広がる、引き締まった身の質感と、香ばしい皮の余韻。 それは、派手さこそないけれど、ふとしたときに思い出すような、 静かな感動を残してくれます。 味付けは、塩だけ。 だからこそ、食べる方の好みに合わせて、わさびや山椒で風味を重ねる楽しみがあります。 わさびの清らかな辛味が、脂をすっと流してくれる。 山椒の香りが加わると、どこか懐かしく、上品な余韻が生まれる。 調味とは、味を支配するのではなく、引き立てるためにある―― 白焼きは、そんな考え方が自然と感じられる料理です。 主役としても、脇役としても成り立つのが白焼きの良さ。 肴として、食卓の一品として、お茶漬けやサラダにも。 器やシーンに合わせてさまざまに表情を変え、 それでいて、どこに置いても「品の良さ」がにじみ出ます。 そして、白焼きのもうひとつの魅力は、その佇まいにあります。 白く、澄んだ身と香ばしい焼き目のコントラスト。 そこに薬味の緑や器の彩りが加わることで、 まるで静物画のように、食卓の空気までも整えてくれる一皿になるのです。 私たちは、誠実に育てられた素材を、誠実に焼くことを大切にしています。 それだけのことを、まっすぐに、真面目に、日々繰り返しているだけ。 でも、それがあるからこそ、飾らずとも心に残る味になると信じています。